敗戦の混乱から台湾少年工を立ち直らせた台湾省民自治会

 

その夜の晩さん会の席上、李雪峰会長から、「台湾省民自治会は君の父親である石川舎監の助言で発足した」という話を聞きました。台湾高座会が今日あるのは、敗戦後前途に光を失い自暴自棄になっていた台湾少年工に、台湾省民自治会を結成して早期帰国の要請など国や県にしろと、素晴らしいヒントを与えてくれた石川舎監のお陰だというのです。

 

李雪峰会長、「ある時、私は石川舎監に呼び出され寄宿舎の横になった広い運動場を二人で行きつ・戻りつしながら話し合いました。石川舎監は言いました。今日の台湾少年工の行動は乱暴で見るに堪えない。これではこれまで君たちが築き上げてきた評価は地に落ちてしまう。それを見ていても、私たち舎監には今は何の権限もなく何もしてやれない。出身地別に自治会組織をつくり、食料の確保や医療、それに一番大切な帰国船の確保など、自分たちで国や県に要求をしていくべきではないのか。それをしないと、いつまでの今日の混乱が続き、問題は一歩も解決しないと言われたのです」

 

それを聞いて、李雪峰氏は翻然と悟るところがあり、直ちにその晩、中学校卒の幹部を招集して石川舎監の提案を具体化しようと皆の意見を求めたのです。反対はあるはずなく、一夜のうちに台湾省民自治会の発足がきまり、五大州別、出身地別の寮の編成変えが直ちに実行されることになりました。

 

組織の大略は次の通りです。

省民自治会は、台北州 新竹州 台中州 台南州 高雄州の5州に大別する。

組織は、大隊 中隊 小隊の軍隊編成を採用する。

1州は5大隊から成り、1大隊は10中隊構成、1中隊は4小隊から成る

即ち各州に5人の大隊長 50人の中隊長 200人の小隊長を置く。

指揮者はそれぞれの組織に責任を持つ。

組織編成に準じて宿舎と部屋割りも行う。

 

それ以外に、対外的な交渉などを行う委員会制度をとりました。

渉外委員会 滞在期間中の給与 退職金 帰還船の配船など

糧食委員会 食糧の確保 食堂 厨房 蒸気室などの管理など

衣料委員会 衣服 寝具 暖房用具など

養護委員会 病人看護 医薬品管理 病院への連絡など

自警委員会 宿舎の管理 秩序の維持など

 

李雪峰会長は続けます。「中学校卒業者がこの活動の中心でした。当時まだ20歳前後の人たちが日本政府や神奈川県の役人と直接交渉して見事にその成果を出したのです。この幹部の活躍を身近にみた年少工員たちは戦時中、上役であった年長者に職場や宿舎で殴られて恨んでいたことを、全て水に流したのです。乱れた生活から秩序を回復するのに、出身地別に寮を編成替えするというヒントは、実践すると非常に効果がありました」

 

確かな記憶はありませんが、私もある日突然に何千人の住む台湾少年工の宿舎全体が見事に秩序を回復したのを記憶しています。それは台湾省民自治会が発足したからであり、それが私の父親の提案を、李雪峰会長が幹部会議を招集して具体化したものであることは、台湾へ行って初めて知ったのです。続く